空っぽの知識
 かたよりまくった読書くんの日記
終物語・上 感想




終物語 (上) (講談社BOX)終物語 (上) (講談社BOX)
(2013/10/22)
西尾 維新、VOFAN 他

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 お前は何も覚えていないのよ――阿良々木。自分が何でできているかを知らないの







 ついに発売、終物語。
 久しぶりの連作短編構成であり、西尾さんの筆のノリようがうかがえる感じ。
 別冊少年マガジンで、第一話のおうぎフォーミュラだけは読んでいたんですが、そのオチが素晴らしく、まさしく阿良々木暦のルーツを探る物語として期待しておりました。いやいや、期待以上でしたわ!
 というわけで久しぶりにガッツリ感想を書こう。


 これは、阿良々木暦のルーツを探る物語。
 忍野扇の出現によって始まる、すべてを精算する物語。
 老倉育という、忘れられた、救いようのない救われない少女の物語。






 ここからはネタバレ全開で!









 とにもかくにも。
 物語シリーズのセカンドシーズン以降は、『なあなあにしていること』を『精算』していく物語であることは、すでに何度か作中でも言及されているのですが、そういった点で言えば、阿良々木暦の過去と言うものはあまり明らかになっておらず、だからこそ彼という人格が形成されるに至ったエピソードが、これほどにしっかりと描かれるとは思わなかった。そういう意味でも、やはりちゃんと『終わり』に向かっているのがうかがえるものである。


 かつては正義を信じていた、純粋な阿良々木少年。
 その彼が正義を見失い、道を踏み外した高校一年生の七月。

 ミステリ形式で、まあ確かにまじめに考えようと思えば解けるんだろうがさすがにこれをまじめにとくには登場人物が多すぎる……。というわけで自分はまったく考えずに読んでいったんだけれども、やはりこういうネタで鉄版というか、教師がかかわってきた。
 大人。
 子供である学生にとっての絶対的な存在。そうでなくても、目上の人っていうのは、否が応でも自分よりも偉いものだと感じてしまうもので、それに裏切られた瞬間の絶望というのは、誰でも想像できるだろうし、あるいは体験したことがあると思う。
 だからこその、最後のカタルシス。阿良々木暦が語る、正しさに絶望した瞬間の衝撃ったらない。
 その瞬間に、少年は教師を教師と思わなくなり、
 その瞬間に、少年は正義を見失ってしまった。
 大人とは必ずしも正しいものではなく、また正しさとは必ずしも正しいものではないのである。



 そして続けて語られるは、第二話。
 老倉育の物語。
 阿良々木を敵視する理由。それを探る物語。
 
 第一話においても精神的な病的さを見せていた老倉だったけれども、それが輪をかけてひどくなって再登場。余談だけれど、伝説シリーズにおいてもそうなんだが、ここ最近の西尾維新は、いかに『面倒くさい女』を描くかに力を注いでいる気がしてならないww
 この老倉の精神的な病みっぷりが、二話のカギであり、そして三話でさらに補強されるっていう流れもまたうまいなぁと思う。
 中学一年の夏に行われていた勉強会。廃墟は実は廃墟ではなく、不思議な少女は不幸な少女で、もらったものに見返りを与えられなかった。少女にとっては必死であるがそれはあるべくして空回りし、少年にとってはその不思議を考察すらせずにただの不思議として処理された。

 実際、老倉にとってはそれ以外にとる手段がなかったというのが第三話で明かされるわけだけど、やっぱりこれは幼さと環境の不幸だなぁと思う。そして暦が責められるのは、やっぱりその状況を不思議に思わなかったのかという点だよな。いくら中一とはいえ、人が住んでいる家と廃墟の区別がつかないのはどうなのだろう。まあ実際ゴミ屋敷みたいなものなら難しいかもしれないけれど、それでも不自然さくらいは……。そのあたりも、まだ少年が純粋で、そして融通が利かないところだったんだろうと思う。
 しかし、裏に隠された真相がある系は珍しいものじゃないけど、こういう病的なものはものすんごい好物だからよみおわったあとの鳥肌は半端なかったわ。老倉からすると、本当に必死のSOSだっただろうし、それに一度振り払った手を求める自分っていうのにすごく傷ついていたんだろうな。

 あと、第二話で面白かったのはひたぎVS育のところだな。あれは素晴らしかった。ずっとぎすぎすしてたのに、あそこだけ爆笑してしまったじゃないか。
 都合よく気絶できる女、ひたぎ。



 そして、最後の第三話。
 老倉育と阿良々木暦の物語。
 二人の関係をたどり、決着をつける物語。

 暦の前から姿を消した老倉が、そのあとどんな生活をしていたのか。
 もう見事な転落人生というか、上がることのない人生というか、ここまで来ると幸せになること自体を拒んでしまうというのもわかってしまう感じ。羽川翼の言うとおり、老倉は幸せになろうとしていない。幸せになることがわからない。幸せになろうとすると、そのまぶしさで忌避してしまう。
 不幸に酔っている、っていう風にも見えてしまうんだけれども、不幸である自分を喜べるほどに、老倉の境遇は甘いものじゃないから、やっぱり単に幸せになることができないんだろうなぁというのが素直な感想。自分よりも不幸なのはいっぱいいるから、自分はまだ幸福。そうやって、自分の傷を見ないようにすることで幸せになるしかなくて、傷を治そうっていう発想が出来ないところが、彼女の本当の不幸。

 そんな彼女の母親の失踪の理由。
 まあ自分も、翼が気づいて、あそこまで言い切るまで気づかなかったんだけれども、気づいた後もヒントを出して、無理にでも暦に自ら気づかせようとする流れのホラーっぷりったらない。
 真相はもはや、老倉育がどれだけ狂っていたかを証明するかのような答えなのだから。
 おかしいことをおかしいとも思えず、ただ自分に背負わされたものを必死で背負い続けて、その中身がいつの間にかなくなっていることにも気づかずに、ただ一人、空回りしていた少女。

 作中で扇が語ってはいたけれど、老倉育はヒロインズの原型と言うか、とにかく不幸な点を極めきったような少女で、だからこそ暦のルーツとして作成されたキャラクターなんだろうと思う。

 ひたぎの家庭事情と彼女の自己保身。真宵の家庭事情とその後の境遇。駿河の家庭事情と偏執的で歪な願い。撫子の家庭事情(これは少ないか)と彼女の逃避方法。翼の家庭事情とストレスの発露。忍の境遇と初期の態度。

 どれも、当人たちからすると重いものだし、また軽々に対応できるものじゃない。彼女たちは自身の性質こそ、阿良々木暦のおかげで少しずつ変えていったが、環境は簡単に変えることはできない。
 老倉育はその中でも断トツで変わることのできなかった性質と、変えられない環境を持っていた。
 だから彼女は、暦が『救えなかった』少女であり、これからも救うことのできないヒロインだ。
 その取り返しのつかなさ。その切なさ。
 失ってしまった。喪失感。
 ロスト。

 けれども、まだ彼らは青春時代を生きている。
 その多くを不意にしてしまった老倉育だけれども、最後に、青春時代だからこそ出来る行動とともに、暦の前から姿を消した。
 残された便箋に記された内容は、彼のみが知る。


 まあ、余談だけれども。
 便箋の考察として、自分としては『お前が嫌いだったけど、今は嫌いでもない』とかそういう感じの文章かなーと思ったんだけれども、ネットを見てて、オイラーの公式じゃないかっていう考察があって、もうそれが答えだろと思ってしまった。それ以上に美しい結末はこの物語にはないだろう。


 あと、バサ姉のすごさを久しぶりに見れてすごく楽しかった。めっちゃ扇から煽られててすっげぇドキドキしたけれども、そのあとの男前な行動にすっごい震えたよ。さすがぼくらのバサ姉! 何でもは知らないけれど、やるときはやってくれる!






 そんなわけで、また久しぶりの西尾維新の本気だった。

 やっぱり彼はこういうダークな面がある話の方が面白いもの書いてくれるよ……。そしてノリで書いた時の方が断然面白いわ。うん、やっぱり西尾維新のこと大好き。



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西織

Author:西織
この欄を編集するのを完全に忘れていた男。今年の四月に新社会人という名の社畜人生に一歩を踏み出した。



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年齢:22歳
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将来の夢:作家(前途多難)

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