空っぽの知識
 かたよりまくった読書くんの日記
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『オクテットレクイエム』 後編


 後編。


 もう、この話で一番のメインであるカインとジェニファーの言い争いを書いているときのテンションは今でも覚えていて、とにかく殴り書くような感じでした。読み返してて、それがじわじわと思いだされて、文章がおかしい部分にしても容易に書き直せなくて困りました……(苦笑)




 裏話として、カインが言っていた九年前の竜人っていうのは佐薙渚のことだったりします。あのへたれ主人公は、この九年後に時点では英雄と呼ばれるまでなってたりしまして、話もラストまでできているんですが、書く時間がねぇ(泣)

 あと、フィーネは完全に脇役あつかいですが、アルミナが言った一年半前の話では主人公の一人だったりします。それは書き始めてはいるんですが、なかなか難航しているので完成はいつになることやら……



 では、後編どうぞ。









※※※

 ジェニファーがマラに来たときの一番初めの記憶は、暗い檻の中だった。
 鉄の檻ではない。それは言うならば、意識の檻である。ジェニファー・クライエットという個人の意識の底。その中に、彼女はミュリエルの命で閉じ込められた。
 その中で行ったことは、『魔道』の修得だった。魔術の基本の全てを、短期の間に修得するための精神催眠の術。それはある種の結界術で、特殊な術式が使用された。
 その中で、ジェニファーは数多くの人と出会い、彼や彼女らの人生を垣間見てきた。ある者は怒りに身を震わせながら果てたし、ある者は激しい慟哭の中一人生き残った。ある者は狂気に駆られ人々を惨殺し、ある者は罪に押しつぶされて自らを殺し、またある者は理想の果てに真理を見つけ、ある者は絶望の底で答えを見つけた。十人十色、一つとして同じでは無い人生が、その中にあった。
 ジェニファーはその中で、六人の人生を特に深く知った。
 燃え盛る炎に身を焦がしながら戦い続けた彼は、自ら断罪の炎に焼かれて死んだ。
 清廉なる水に愛する者達の幸せを願った彼女は、民の身代りとして切り裂かれた。
 吹き荒れる砂塵の中で仲間の死を見続けた彼は、自ら砂漠にその身の力を捧げた。
 深緑の森に自らの居場所を見つけ出した彼女は、策謀の果てにその身を滅ぼした。
 激しく駆け抜ける雷をその手に掴み取った彼は、豪放に笑いながら最後を迎えた。
 終わり無き魔の中の暗闇に純潔を捧げた彼女は、人である自分を捨ててしまった。
 その六人。
 年代も場所も立場もまったく違う、何の共通点も無い六人。しかし、その六人の人生は、ジェニファーの中に今なお深く根を張っている。
 全ての人生を追体験して見つけ出した六人。そして、それをもって彼女は『意識の檻』の中での修行を終えた。
 長い、あまりにも長かった生活は、いったん終了した。
 起き上がったとき、ジェニファーが始めに見たのは、白く光る電灯と、そばで覗き込んでくる女性の姿だった。
「……だれ?」
 深く考えることなく、ジェニファーは問う。
 それに対して、女性は困ったように目を泳がせる。なんと答えて言いのか分から無いのか、それとも口下手なのか。口をもごもごと動かしながら黙っている。
 やがて、女性は覚悟を決めたのか、一言、こういった。
「アルミナ――アルミナ・コゼットと申します。よろしくお願いします。ジェニファー様」
 ぎこちなく言いながら、がちがちに固まった手をジェニファーの頭へと触れてくる。
 慣れていないのだろう。力加減を気にするような、恐る恐るといった手の動き。その手の動きは、決して優しいものではなかったが、しかし思った以上に安心できた。
 それが、アルミナとの始めての出会い。
 ――その時にジェニファーは、アルミナの中にとても冷たく鋭い『風』を見た。
『八人目』と出会ったのは、マラの魔術師によってジェニファーの『開発』が行われていたときだった。
 その人物は、まぶしくなるほど全身を真っ白に統一し、病的なまでに白さを強調する人だった。『白き邪神』と呼ばれる彼は、死ぬまでの一週間の間、時間が許す限りジェニファーと会話するように努めた。
 その時の会話をジェニファーはあまり覚えていないが、その時間はとても心地のよい時間であったことを覚えている。だからこそ、彼が死んだと唐突に言われた時は、ジェニファーはただ唖然とするしかなかった。
 ――その時に彼女は、彼の中に激しく照らしつける『光』を見た。
 それらの出会いが、彼女の人格にとってどんな影響を及ぼしたかは分からない。
 しかし、それらの出会いは、ジェニファー・クライエットという魔術師にとってとても重要なものであることを、後々彼女は身にしみて理解しなければならなかった。

◇◆◇

 泥の弾丸は一斉にジェニファーに向かう。
 四方から襲って来る攻撃。避けようにも、逃げ道すら用意できないほど密集した弾丸の雨が、ジェニファーを襲う。
 しかし、別に回避行動を取らずともいい。
 ジェニファーは身じろぎせず、ただカインを見つめたまま突っ立っていた。それなのに、数十もの泥の弾丸は、すべてうまい具合に外れていく。また、それるのが不可能な起動のものは、彼女に当たる寸前で停止し、重力にしたがって地面に落ちる。
 まるで、弾丸の方が彼女を避けているかのようである。
「もう、私の『魔法』は発動しているの」
 誰かに言い聞かせるように、ジェニファーは日本語でカインにのみ言う。
「この場で私に攻撃は当たらない。たとえどんなことをしても、あなたは私を攻撃しようとすることは出来ない」
「――強制暗示か」
 カインは苦々しそうに舌打ちする。
 実際は、カイン本人に向けて術を放ったわけではない。ただカインは、この場の雰囲気によって、勝手に暗示にかかったのだ。
 そこがこの魔法の恐ろしいところ。
 人の心というのは本当に些細な事柄でも揺れ動く。簡単に言えば、仲間が不安になっているのを見れば自分も何故か不安になってくるといった感じである。そういった思いを増幅させる効果を、この魔法は持っているのだ。
 だからこそこの術は、本当は集団戦でこそ、よりその真価を発揮する。一度術を完成させれば皆が勝手に不安を増幅させていくのだ。あとはジェニファーが対応を誤らなければ済むだけの話である。
「随分と、いい魔法を持ってるな。ジェニファー」
 少しだけ感傷の入り混じった声で感想を言う。
 それに対して、ジェニファーは苦しそうに。
「ねえ、どうして、カイン」
「――こういうのも、ダメか」
 ジェニファーの言葉を無視して、カインはローブの下からナイフを取り出し、彼女へ向けて投擲する。
 が、それもジェニファーとは違うほうへ向かう。
 それを見送ると、カインはすぐに木の上から飛び降りると、ジェニファーに向かって走り出した。
 話を聞いてもらえないことに顔をしかめつつ、向かってくるカインに杖を構えて応戦する。
 カインの手からナイフが放たれた。それは、最初からジェニファーを狙っていない。フェイントのようだ。
 だから最初からそれには注目せず、ジェニファーはまっすぐに杖を振る。
 体を左に動かしてカインは避ける。続けて、彼は近距離からナイフで刺そうとして――動作が停止した。
 固まったのは一瞬だけ。ナイフで刺すことは叶わないと知ると、カインはすぐにバックステップで退避して自分の背後を振り返り、ナイフを投げた。
「『纏わりつく土くれ、泥濘を歩く――』」
 そして、詠唱を開始する。
 詠唱とともに、今まで彼が投げてきたナイフがすべて光った。
「『――沼に手を浸し、泥に型を取る。それを我が血肉の形代となす』」
 四本のナイフは、うまい具合に十メートル四方に刺さっていた。
 それは、ジェニファーに攻撃を仕掛けると見せかけて、『場』を作るために投げられたものだった。
「『簡易術式。泥の腕。始動』」
 呟くと同時に、彼の両側の地面が盛り上がる。
 それは円筒のようにそびえたち、やがて一つの形を取る――人の、腕の形を。
「『我が名は、カイン・ケイネス・マディ』」
 そうして、本名を名乗った。
 これが、彼の魔法。
 ジェニファーはそれを、しっかりと直視する。
 話だけは聞いたことがあった。泥状の巨大な腕を作り出し、操作する魔法。しかし、みたことは初めてだった。だいたい、魔術師は自分の魔法を出来る限り人に見せないようにしているのだ。それは、仲間であっても同様である。
 だから、これが彼の魔法との初対面だった。
 それが、意味するのは――
「……簡易術式って言ってたけど、そんなので私に対応するつもり?」
「詠唱に時間取られすぎたらまずいからな。別に、お前を倒すくらいならこの程度でいいさ」
 冷たい、温度を伴わない言葉。
 これが、つい三十分前まで軽口をたたいていた男と同じとは、誰も信じないだろう。まして、それをジェニファーに対して向けていることを考えたらなおさらだ。
 本当に、カインは敵に回ったのか。
「いくぞ」
 カインが右腕を動かす。腕を振り、握りこむように手を動かす。
 まったく同じ動きを、泥の腕は行う。ジェニファーを握りこむように、泥の腕が迫る。
 本気であった。その動きには僅かの躊躇いもなかった。本当に彼は、ジェニファー殺そうとしている。
 それを感じ取り、ジェニファーは目を伏せる。
 迫ってきた腕は、しかしジェニファーを握りこむ寸前でやはり停止する。
「無駄って……言ってるじゃない!」
 泣きそうになりながら叫び、ジェニファーは地を蹴る。
 話を聞きたい。どうして自分たちを裏切ったのか。どうして、マラに協力するのか。しかし、向こうには話をするきはまったく無いようだ。
 だったら――力ずくでも話をさせてもらう。
 そう思いながら、停止している泥の腕の合間をぬいカインの方へ走る。
「――言っておくが」
 対して焦りもせず、カインは冷めた瞳でジェニファーを見つめ、ゆっくりと口を動かす。
「別に、お前のこの『結界』を破る方法が皆無というわけでは無いんだぞ」
 背に、突如衝撃が走った。
 何が起きたのか、ジェニファーには分からない。
 ただ現象だけが起こる。――強い力で背を叩きつけられた彼女は、その場に転倒する。安心していたときにされた攻撃であるために、受身すらまともに取れない。思いっきり地面に体を打ち付ける。
 どう、して……?
 なぜ攻撃を食らってしまったのか分からなかった。カインの様子にはしっかりと注意していたはずだ。また、他に残っている二人にしても同様だ。誰も、ジェニファーに対して攻撃しようとする意思を発してはいなかった。それだけは確実に言える。
 ――それなのに、何故?
「お前の『魔法』。俺も見たのは初めてだけどよ。お前の魔術の系統と、今食らっていた『魔法』の影響を照らし合わせりゃ、それがどんな術であるか大雑把になら理解できる」
 ようするに、とカインは手をジェニファーの方へむけながら続ける。
「俺たちの意思でなけりゃいいんだ。それなら、お前に攻撃を当てることは可能だ」
 ジェニファーの周りの泥が、球体を取りながら浮遊する。
 彼の周りに、泥の弾丸が集まる。
 まさか、とジェニファーは顔を青ざめる。
「そうだよ。一番初めの四方一斉攻撃。あの時、弾丸の中のいくつかをランダムに動くように命令していた」
 あれだけの物量攻撃だ。その中で、カインの意思がこもっていないものがあるだなんてことを、思うはずもない。
 そうして、すべての弾丸が外れた中で、一発だけはまだ術の命令が残っていて、あのタイミングで始動されたのだ。
「――そして、お前の術が暗示である以上、一度でも『攻撃できる』ということが分かったなら、その暗示は解ける」
 カインの周りにある泥の弾丸が、一斉にジェニファーに向かう。
「『泥沼の纏わりつく洗礼』」
 べちゃりべちゃり、と弾丸は全て彼女の体に着弾する。それは、先ほどまでのような打撃ではない。
 すぐにその術の効力を思い知る。体が重たいのだ。しかもべたついてしまって思うように動けない。見ると、体全体が泥に覆われて、半ば固まりかけている。
「俺の術は、『土』というよりも『泥』だからな。こういうものの方が本当はやりやすいんだ。それに加えて、この天候。雨が止んで間もないという天候。俺の術を使用するに当たってこれほどの好条件は無い」
 淡々といいながら、カインはジェニファーの元に近づいてくる。
「おい、お前ら。手は出すなよ。少しだけ話があるから」
 今まで黙って武器を持っていた二人に、カインは英語で指示を出す。二人は少しだけ不服そうな顔をしながらも、すぐに臨戦態勢になれるように武器を持ってその場に立っていた。
「……どういう、つもり」
「どうもこうも。話があるんだろ? 俺に」
 まるでなんでもないことのように、カインは軽い口調で言う。しかし口調とは裏腹に、その表情は冷たい鋭利さを持っている。
 突然彼の方からそんなことを言われて、ジェニファーは少しだけ戸惑う。まさか、向こうの方からそんなことを言ってくるとは思わなかったのだ。
 カインの反応を窺う。感情の色の見えない無表情。しかし、真剣なのは伝わってくる。今の彼なら、自分から何を聞かれたとしてもしっかりと答えてくれるだろう。
「どうして、裏切ったの」
 そう思ったから、ジェニファーは無駄なことは省き、単刀直入に聞くことにした。
 あまりにも直接的な言葉。ごまかされるだろう、とジェニファーは思っていた。というよりも、それを期待していた。
 しかし、予想に反してカインは真面目に答えてきた。
「マラの方が――いや、ミュリエルや、あの白い魔術師が所属しているマラの方が、俺にとっては大事だからだ」
 断言するように言う。それを選んだことに、後悔は無いということが分かる。そんな断定の仕方だった。
 そんな風に言われた所為で、ジェニファーはとっさに次の言葉を続けることが出来なかった。次に何を聞けばいいのか分からなくなる。口だけがパクパクと動く。
 そんな彼女に対して、カインは言葉を続ける。
「ジェニファー。お前はマラから連れ去られてマラに来たって聞いたが、俺は違うんだよ。――俺は、マラに保護されたんだ」
「……それは、どういう」
「そのまんまの意味だよ。俺は、マラに命を救われた。もしあの白い魔術師と出会ってなかったら、俺は今生きてないだろう。あの紛争の中で、銃弾に身を引き裂かれていたはずだ」
「…………」
 遠くを見るような目で語るカインを、ジェニファーは黙って見つめる。
 懐かしむような、それでいて苦しそうなカインの表情。しかし、話さなければならないという強迫観念に迫られているかのように、淡々と言葉を重ねる。
「マラの生活は、俺にとっちゃ天国だった。まず、食事を三食取るってことがびっくりだったな。それまでの生活じゃ、一日一回胃の中にものを入れられたら幸運だったくらいだから、三食食えって言われた時は、自分だけ特別なのかと身構えちまった。
 それと、ベッドで寝れたときも驚いた。それまでベッドっつったら硬い木材で出来たもんだって思ってたから、あの柔らかさを感じたときの驚きったらない。あんまりの気持ちよさに次の日身体に力が入らなかったくらいだ。
 他にも、マラに来ていろんな初めての体験をした。正直、そういった体験をするたびに、あんまりに幸せなものだから、罰が当たるんじゃないか、って思ったくらいだ。だから、俺はその代わりみんなの期待に応えるために、必死で魔術の勉強をしたよ。そうやって、何か苦労をしないと幸せが嘘に思えてしまったからな」
 なあ、ジェニファー。とカインは語りかけるように言う。
「ここまで話して、お前は俺の気持ちは分からねぇだろ? そりゃあ、頭では理解してるかもしれない。辛いだろう、苦しいだろう、ってことは分かるかもしれないが、同じ思いを抱くことは無い。
 実際、俺はお前の気持ちは分からねぇ。お前の境遇は話だけなら聞いている。両親を殺され、仇であるマラに連れ去られた。それを考えると、お前も俺と同じように相当いろいろなもん抱えてるのは分かる。だが、それでもお前がマラにどんな思いを抱いているかなんてことは、根本的な意味では俺は分からねぇ」
 平坦な口調で、言葉は続く。
 あくまで、無表情、無感動を貫くカイン。
 しかし、見ていたら分かる。カインはとても苦しそうだ。とても、辛そうだ。この話を話すのが、彼にとってかなりの苦痛のようだ。それがはたから見ていても分かる。だがそれでも、カインは話し続ける。
 まるで、これだけは話さなければならないとでも言うように、懸命に話す。
「だから、俺はお前に言い訳をするつもりは無い。お前にとってマラは敵だし、俺にとってマラは大切な場所だ。例えどんなに間違った方向に進もうとしていても、それは変わらない。この気持ちは、お前に説明したところで、お前が理解できることではない」
「……戦争、なんだよ」
 ほとんど独白のようになっていたカインの語りに、ジェニファーはこらえきれずに言葉を挟む。
「マラがやろうとしているのは、戦争なんだよ! ねえ、カイン! 私はあなたの過去をほとんど知らないけど、さっきの話を聞く限りじゃ、あなたは少なくとも戦争の苦しみを知っているはず。なのに何で、何で、その戦争の手助けをしようとしているの」
「ミュリエルが決めたことだから、だ」
 迷いの無い口調で間髪いれずに答えるカイン。
「マラ全体のことは、実を言うとあんまり関係ない。実際に俺にいろいろしてくれたのは、あの白い魔術師と、オーガラス、そしてミュリエルの三人だ。この三人には、俺は自分のすべてをかけて恩返しをすると誓った。三人がマラのために動くというのなら、俺はそれに従うまでだ」
「それが――間違っていることだと、思っても?」
「まずミュリエルの決定を間違っていることと思ったりしない」
「マラがやろうとしているのは、戦争なんだよ」
「ああ、そうだな」
「いっぱい、人が死ぬんだよ」
「それでマラが生き残って、ミュリエルの願いが叶うんならいいさ」
「戦争が起きたら、巻き込まれる人が出てくる。――いっぱい、カインみたいな人が生まれるんだよ?」
「分かっているよ。だが、そんなことに構っている余裕は無い。そんなことを考えていたら、生きてなんていられねぇよ」
 この世は、弱肉強食だ。
 そんなこと、今更言われるまでも無い。その規模は大きかったり小さかったりいろいろだろうが、それは生きていれば誰でも感じることだ。
 カインが生き残るきっかけを手に入れたのは、偶然だったのかもしれない。しかし、それを生かしたのはカインの力だ。
 死線をくぐってきたからこその、厳しい言葉。世界は、甘い言葉だけでは救われないことを知っている。救われることの出来る者の数には限界があるし、その中で生き延びることの出来る数もまた限界がある。
 ――だけど、そんなの。
「そんなの、間違っている」
 ジェニファーは納得いかないように呟く。
「カインは、子供のときの生活が辛かったんでしょ。ずっと、苦しんでたんでしょ。それなのになんでそれを繰り返すようなことをするの。なんで自分と同じ人を増やすようなことをするの!」
「だから、それは」
「戯言が聞きたいんじゃない!」
 答えようとしたカインに怒鳴りつける。
 どうせ、カインは同じことしか言わない。――同じ、自分を押し殺した答えしか言わない。
「私は、あなたの気持ちを聞いている! 建前や言い訳が聞きたいわけじゃない。カイン自身は、いったいどう思ってるの!?」
 彼の本心が聞きたかった。
 もちろん、今まで話してきたことが嘘だとは思えない。
 でも、彼は何かを押し殺して。自分の気持ちを押さえつけて、話をしている。その押さえつけているものはなんなのか。漠然となら分かる。
「あなたがマラに味方したいってのは本当かもしれない。でも、そのために戦争の手助けをするってのには、あなたは賛成じゃないはずだ。だってあなたは、戦争の恐ろしさを知っているから。あの、殺戮のむごさを知っているはずだから!」
「お前に、俺の気持ちは分からねぇよ」
「分からないかもしれない! だけど、私だって戦争の恐怖は知っている! 確かにそれは、実体験じゃなくて他人の記憶だけど、それでもあの地獄に恐怖した。そんなものを間近で感じて、平気でいられるはずが無いじゃないか!」
「ああ、そうかもしれない。だが、それは俺だけの問題だ。俺なんて、十五魔鏡の一人だなんて大それたこと言ったところで、マラ全体からしたらコマの一つだ。マラという組織に従う以上、自分という個性はある程度打ち消さないといけない」
「わざわざ気持ちを打ち消さなきゃいけないような組織なら、抜けちゃえばいいじゃない!」
 そこで、とうとうジェニファーの言葉に涙が入る。
 涙の所為で僅かに甲高くなった声のまま、ジェニファーは訴える。
「何で、間違っていることを間違っているって思ってそのままでいるの!? 自分が嫌なことなのに、どうして無理に従おうとするの!? そんな風に無理をしなきゃいけないくらいなら、何にも縛られず自分の思うように生きたほうがいいじゃない!」
「お前は甘いんだよ。ジェニファー」
「甘くてもいい! 私は、間違ったことを言っているつもりはないから!」
 返された言葉に、すぐさま噛み付く。
「自分に嘘ついてどうするの! 甘くったっていいじゃない! 自分に嘘ついて苦しみながら従うより、そっちの方がよっぽどいい! そりゃあ、あなたにとってマラは大切なものかもしれない。でも、その大切なものが間違ったことをやっていると分かって、あなたはなんとも思わないの!?」
「きれいごとだよ」
「ああ確かにきれいごとだよ! でも、いいじゃない。……きれいごとや、甘さを無くしたら……後には、何も、残らないじゃない」
 声が尻すぼみに弱くなっていく。
 自分で言っていて、無茶苦茶だというのは分かっている。そんな気持ちだけで何かが果たせるわけでは無いとはジェニファー自身理解している。でも、間違ったことを言っているつもりは無い。
 だけど、彼女はそれ以上言葉を重ねることが出来なかった。彼女が話しかけるごとに分かってしまう。カインの意志の強さが。どんなに言葉を重ねても、カインの表情はまったく動いていない。
 何を言ったところで、彼の気持ちが変わることは無いだろう。
「お前の言いたいことは、そこまでか?」
 無情にも、カインは冷たく言い放つ。
「だったら、話はこれで終了だ」
 踵を返して、ある程度距離をとるためジェニファーから離れる。
 ――ああ、そっか。
 体から力が抜けるような気がした。
 ――私たちの間には、もう越えられない、分厚い壁があるんだ。
 ジェニファーは、ぼんやりとそんなことを考えた。
 離れていくカインに圧倒的な距離感を感じながら、ジェニファーは低い声で言う。
「……ええ。そうね」
 もう期待はしない。
 カイン・アルファスへの思いも、何もかもを停止させる。
 ただ彼を――カイン・ケイネス・マディという名の魔術師を、自分の敵として認識する。
「レンテンシア――」
 ジェニファーの小さな唇が、僅かに動く。
 そのまま、ボソリとその名前をつぶやいた。
「『レンテンシア・クライエット・ソフィリア』」
 それは宣戦布告だった。
 真名を名乗りあうことは、魔術師にとって決闘を意味する。
 ジェニファーの言葉に、驚いたようにカインは振り返る。
 構わずに、ジェニファーは続けてその言葉を口にする。

「『あなたたちは、動けない』」

 それ以上何もさせまいと、カインは駆け出した。
 が、そこまでだった。振り返ったところで、彼の動きは、無意識の反射によって封じられてしまい、ピクリとも動くことが出来ない。
 唯一動くのは、口だけだった。
「じ、ジェニファーっ!?」
「『八つの鐘を鳴らしましょう』」
 詠唱が始まる。
 今までの詠唱とはまったく違う。全然関係の無い詠唱だ。
 ――私は、この人を殺す。
 ――その覚悟を、この術にこめる。
「『それは懺悔で後悔で、それは悲願で哀願だ』」
 ジェニファーは呪文を唱える。目の前の『敵』を倒すために。
 その姿を見て、カインはすぐに我に返り、あとの二人の様子を確認する。――どうやら、彼らも動けないらしい。戸惑ったようにしながら、賢明に動こうとしている。
 突然の拘束に、カインは混乱している。ジェニファーの術は、暗示の積み重ねが効力を発揮するものだ。始めにかけられていた暗示は、一度破られている。だから、暗示は振り出しに戻っているはずだった。それなのに、なぜかたった一言でこうも拘束されている。
 カインは知る由もなかったが、これが、ジェニファーが日本語を習っていた理由である。
 日本語が英語などともっとも違う点は、言葉の形式にある。英語はアルファベットを組み合わせた上で、単語は流れるような発音を行うために曖昧な発音が多い。それに対し、日本語の場合は、五十音を組み合わせて様々な言葉を作る。すなわち、発音は五十音以外にありえないのだ。
 その中で、ジェニファーが行ったのは、分割詠唱の最も極端な形である。
 暗示というのは、無意識のうちに相手の精神に与えるものである。その性質上、極端に言ってしまえば、相手に『意味』を刷り込むことさえ出来ればいい。――すなわち、キーとなる言葉さえ相手に刷り込むことが出来れば、暗示が出来るのだ。
 感情的になりながら話していたさっき。その時の言葉の、要所要所のみを、術式のために使用した。例えば、『弱い』という単語を言うために、例えば『そのようになることはわかっていた』のように、ところどころの言葉のみを組み合わせることがジェニファーにはできる。――本当は、別に上から順に言わなければいけないわけでは無い。ようは、言いたい単語に必要な五十音の言葉さえ発音されればいいのだ。
 それがジェニファーの呪文詠唱法。
『歪な詠唱(パッチワーク・スペル)』というのが、その術の名前だった。
 ただ、これは日本語を理解しなければならないため、カインにしか通用しないものだった。そこから『アンコンシャス・スレイヴ』と組み合わせることで、あとの二人も暗示に掛けられたという形である。
 もちろん、まともな詠唱で無いため、術の効果は薄くなる。即席も即席。今回カインたちにかけた『動けない』という暗示にしても、おそらく二十秒も持たないだろう。
 だから、その間に呪文の詠唱を終える。
 ジェニファーは、自身のすべてをかけて、その『魔法』の詠唱をする。
 マラにおいてジェニファーが存在する理由となった魔法を。

※※※

 ジェニファーの記憶にある、『意識の檻』。それは、もとの形はジェニファー自身の魔術を下に、マラの魔術師によって形成されたものであった。
 しかし、彼女がその中で見た夢。それは、彼女の能力とはまったく関係の無いものである。そもそも、『意識の檻』はあくまでジェニファーが『魔道』を修めるために使われたものだ。彼女が見た『夢』は、十五魔鏡の一人であるオーガラス・フェイレンが後から付け加えたものである。
 彼の魔術は、ある概念を場に表現するもので、彼の『魔法』はその概念を場に展開することが出来るというものだ。その中の一つ、『戦士の行き着く地(ヴァルハラ)』は、幾千もの戦士たちの魂の記憶を記録した、複数の歴史帳のような物だ。
 その中でジェニファーが見た記憶は、その中に記録されたものの中でも、特に魔術師を中心に集められた記憶である。
 ジェニファーが見たのは、六人の記憶。六人の魔術師の、成功と敗北の歴史。魔術師たちの戦いの人生を、ジェニファーは隅から隅まで頭に刻み込むことになった。


 八つの鐘を鳴らしましょう。
 それは懺悔で後悔で、それは悲願で哀願だ。
 全ては尊き犠牲に送る、ささやかなる誉れ。
 打ちし鐘は儚なれど、久遠の果てに響き渡る。
 我は打ちつつ彼らを悼み、その栄華をここに願う。
 八つの鐘の、音に乗せて――


 意識の檻の中で知った六人の魔術師に加え、意識を覚ましてから出会った二人の魔術師。それによって、八人はそろう。
 そうして、ジェニファーのもう一つの魔法が完成した。
 それは、彼女がマラに連れてこられた理由であり、また幼くして十五魔鏡に入る理由となったものである。

◇◆◇

 カインの魔術は、根本的には『泥』を利用したものというよりも、その場にある『水』と『土』を操るといったほうが正しい。
 その間にあるものを操る。しかも、自分の任意の形にし、自分の思い通りに動かすことが出来る。それは、操作系魔術の中でもかなり難易度が高く、誰でも出来ることではない。これは、カインの才能と努力の結果である。
 そして、その果てにたどり着いた魔法、『腕を模る泥の意思』は、泥そのものにカインという個人を投影させるというものであり、部分的なゴーレムに近い。
 それが、あの泥の腕である。
 九年前には『クレイマン(泥人形)』と揶揄されたその魔術も、今では誰もが認めるゴーレムとなった。当時対決した竜人とは引き分けたが、今ならどうなるか分からない。向こうはすでに英雄として世界に名をとどろかせているくらいだが、遅れをとるつもりはなかった。
 魔術具は、両腕にはめている腕輪。それを媒体とし、自身の腕の動きを真似させる。
 それは単純に彼の腕の動きとまったく同じ動きをするというだけでない。その大きさも操作でき、また複数生み出すことが出来る。簡単に言えば、カインの腕が何本も増えたようなものである。
 そんな彼の術は、さっきのだけでは完成していない。
 だから今、ジェニファーが詠唱に集中している間に、カインもその術を完成させることを選んだ。
 ジェニファーにかけられた暗示が、即席なものだというものは分かった。しかし、それはすぐに解けるというわけではない。だったら、その時間は有効に活用したい。
 そこまでのことを、ジェニファーが二小節目を終えた段階で考え、すぐに詠唱を始める。今カインに足りない詠唱は三小節。
「『八つの鐘の音に乗せて』!」
「『わが身を映し聳え立て』!」
 三小節の呪文を、ジェニファーとカインは両方とも同じタイミングで終わらせる。
 カインは、まわりの泥の様子を感じる。『水』と『土』の混ざり合った二つを、カインは鮮明にイメージできる。あとは、それを自分の意思にあわせて動かせばいいだけのこと。
 彼はジェニファーのほうを見る。彼女もまた、魔法名を名乗った。彼女という個体にかされた、本当の名前。それは、魔術師にとってある種の覚悟を表す。
「『その身に纏いしは、断罪の炎』」
 続けて、ジェニファーはさらに別の呪文を重ね始めた。先ほどの詠唱がなんだったのかわからない。しかしそんなことはカインには関係ない。
「『守り抜いて爛れた背中、戦い抜いて焼かれた両手』」
 二小節目をジェニファーが唱えたところで、カインを縛る暗示は解けた。体が動く。急に自分の意思通りに動くようになった体に若干の違和感を感じつつ、カインはすぐに自分の右手を振るい、巨大な泥の腕をジェニファーに向ける。
 しかし、それにジェニファーは動かない。ただ、呪文の詠唱に集中している。
「『それでも炎は燻らず、より一層輝きを増す』!」
 それが締めの言葉だったのか、ジェニファーはほとんど叫ぶようにして言い切った。
 しかし、次の瞬間、泥の腕がジェニファーを押しつぶす――

「『爆破』」

 ジェニファーを中心に、突如爆発が起きた。
 その爆風で、泥の腕がはじけ飛ぶ。
「何っ!?」
 まさか、あのタイミングで術が間に合ったのか?
 驚きながら、カインはその成り行きを見守る。
 爆風によって舞っている白い煙が、ゆらゆらと晴れていく。
 そこにいるは、カインの泥の拘束によってしゃがみこんだままの姿勢の、無傷のジェニファーであった。
「『爆砕』」
 ジェニファーは、呟いた。
 それとともに、彼女を拘束している泥の塊が、脆く崩れた。
 悠然と、立ち上がるジェニファー。そして、ゆっくりとカインの方に視線を移した。
「『我が名は、フェルディナント・ケイ・リーランス』」
 厳かに、彼女は呟く。
 彼女のセリフに、カインは自らの耳を疑った。
 どういう、ことだ?
 どうして、真名を二つも名乗っている!?
 カインは予想外の出来事にパニックになる。――真名とは、ある種の枷であり、またある種の防壁だ。魔術師にとって生まれもってつけられた名前というのは深い意味を持つ。普段魔術師が使っている名前は、いわば通称である。そのため、隠された真の名前というものがある。
 魔術師は他の魔術へのささやかな対抗策として、自分の体に常にある一定以上の魔力を纏っている。それにより、魔術に対するある程度の抵抗があるのだ。
 本名を名乗るというのは、その抵抗を解くことに繋がる。それが意味するのは、全力を持って相手を迎え撃つということ。魔術師同士の決闘において使われる、一種の儀式のようなものである。
 そして、魔術名というのは、それが本名であるがゆえに、複数あることはありえない。
 それなのに……。
 混乱しているカインを尻目に、ジェニファーは冷静にもう一度口を開いた。
「『その身に従えしは、一陣の風』」
 また、別の呪文。
 余計にカインの頭の中は混乱する。炎の呪文だけでも十分驚きなのに、おそらく今度は風だ。どうして、彼女がそれを使えるのかが分からない。彼が知っているジェニファーは、少なくとも精神以外の術を扱うところを見たことがなかった。
 戸惑っていたために、カインは呆然として動けなかった。
 だから、後ろに控えていた二人が攻撃に先んじても、注意も何も出来なかった。
 呪文を叫びながら槍を構え突進する一人と、背後で呪文を唱えながら銃を構えるもう一人。
 二人は、彼女を殺すという当初の目的を、忠実に守ったに過ぎない。
「『誓ったのは一つの復讐、手に入れたのは一つの後悔――』」
 そこで、ジェニファーに向けて槍が振るわれる。
 槍によって切りつけられる瞬間、彼女は驚くべき行動に出た。

「『爆砕』」

 ――呪文の間に、別の呪文を、組み込んだ。
 呪文の詠唱の間は、かなりの集中が必要なため、大抵の場合は無防備になる。
 だからこそ、槍を持った男も安心して切りつけたのだろう。しかしその結果は、突然起きた爆発によって槍を破壊され、爆風に彼自身も吹き飛ばされるというものだった。
 地面に落ちた彼は、爆破によって砕けた槍の刃先をその身に受けていた。腹部に刺さった箇所から血が流れている。それ以外にも、全身を火傷と破傷で傷つけている。
「――『全てを貫く一振りの矛、それを手に彼女は慟哭す』!」
 ジェニファーはというと、先ほどの炎の呪文はなんでもなかったかのように、風の呪文の三小節目を唱える。
 それが終わると、彼女は手を構え、呟く。
「『風の槍』」
 場の空気が一瞬にして凪、さらに一瞬にして突風となり一点に向けて放たれる。――拳銃を持った、最後の一人に向けて。
 カインは、自分の横を目にも留まらぬスピードで駆けていく風を感じた。後ろを振り返らずとも、後ろの人間がどうなったかは、彼にはよく分かった。
 むしろ振り向く余裕はない。目の前の少女から、片時も目をそらすことができなかった。
 彼女は、ゆっくりと顔をあげると、その名前を口にする。
「『我が名は、アミナ・コランルイア』」
「っ!?」
 その名には、覚えがあった。
 つい、数十分前に聞いた、ある魔術師の真の名。
 だが、どうして、彼女が、それを!?
「――私は、マラに着たばかりの頃、『意識の檻』という魔術を使われた」
 カインの疑問に答えるようにジェニファーは言う。
「それがどういう術か、カインは知ってるでしょ?」
 意識の檻。聞いたことはある。精神世界において、実際の時間よりも何倍もの時間の中で魔術の修行を行うために作られた術。
「それに加えて、私はオーガラス・フェイレンによって、『ヴァルハラ』という記憶概念魔術をもとに、夢を解して見せられた」
「……どういう、意味だ?」
「私は無数の人間の人生を垣間見た。そしてその中でも、六人の魔術師の人生を見た」
 滔々と語るジェニファー。その瞳は、すでに光をともしていない。
 暗く、重苦しい瞳。
 信じていたものを失った瞳。
 そんな瞳で、ジェニファーは自らのことを語る。――まるで先ほどのカインと同じように、聞いて欲しいとでもいうかのように。
「私の魔術は、暗示でしょ。しかも、その暗示って言うのは、基本レベルですでに、自分すらも騙せるレベルのものだった。それでね、マラの魔術師たちは考えたらしいの。――自分を騙しきった結果、『私』という人格以外を作り出すことが出来るんじゃないかって」
「そ、それは」
「ええ。その結果が、これ」
 彼女は、自分を見せびらかすようにする。
「マラの計画では、何らかの形でオーバーラップスキルを作り出したかったらしい。複数のまったく系統の違う術式を、しかも高レベルで扱える術者。それはある意味、一個で多数を表すことができる兵器。その計画は、いろんな形で表された」
「その中の一つが、お前だって言うのか?」
「私、というよりも、私の中の『魔法』って言ったほうがいいかもね。マラの秘蔵中の秘蔵である計画。その条件にある人間が見つかった。それが私。そして、私を元に研究されて、私が作り出すことを強要されたこの魔法が、『オクテット・レクイエム(八重奏の鎮魂歌)』」
 何の感慨も無い様子で、ジェニファーは言う。
 しかし、それでもまだカインの疑問は腫れない。
「……魔術師は、その適正である術しか扱えないはずだ」
「その適正って言うのが、どこで決まると思う? 肉体ではなく、精神だよ。だから、私のような精神術に特化した人間が選ばれた。『意識の檻』の中でも、精神の分化、っていうのを一番集中してやったしね」
 そして、と彼女は続ける。
「その後で、分化した精神を別の人格に偽るということをした。例えばさっきの炎使い、フェルディナントは、今から百二十年前の魔術師。彼の人生と、その人格や行動を、私はオーガラスの魔術で知った。そして、分化した精神の片方で、自分はフェルディナントであるという暗示をかけて、フェルディナント本人と数分違わないレベルにまでその精神を成した」
 ジェニファーは簡単に言い放っているが、それが簡単なことではないくらい、専門で無いカインにもわかる。
 暗示といえども、それは所詮思い込みである。本人と変わらない形にする、ということは、すでに自分という人格は崩壊してしまっている。――だからこその、精神の分化なのだろうが、それにしたところで簡単にいくはずが無い。
 もしジェニファーの言う通りだったら、いったいどれだけの時間をかけなければいけないだろうか。それこそ、一年や二年なんてものじゃないはずだ。
「私はね、カイン」
 ゆっくりと、か細い声でジェニファーは言う。
「『意識の檻』の中に、何年いたと思う?」
 その後、自嘲するように笑って、
「――ふふ、なんとね、六十六年だよ」
「六十、六年……」
 絶句してしまう。
 想像することすらできない。その時間の長さを。
 もちろん、精神の中の出来事なので、現実にはそんな時間は経っていないだろう。そうでなければ、彼女がまだ少女であることの理由がつかない。しかし彼女の精神は確実に、六十六年という歳月を過ごしているのだ。
「それだけの時間をかけて『オクテット・レクイエム』を、……八人の魔術師の魔法を扱う術を、作り出したのか?」
「正確には、『意識の檻』の中で作ったのは六人分だけどね。あとの二人は、意識を取り戻してからやった。だから、アルミナの術があるの」
 そこで、どうしてアルミナのものがあるかがやっと納得した。おそらく、アルミナが彼女の世話役にされたのは、このためだろう。
 その上で、もう一人というのが気になる。
「もう一人はね……あなたが、よく知っている人だよ」
「どういう、意味だ?」
 尋ねるカインに、涼しい表情で返すジェニファー。そして、次に口から出たのは、呪文の詠唱。
「『その身を照らししは背徳の光』」
 光の呪文。
 それを、ジェニファーは丁寧に詠唱する。
「『白で固めたその体、白を除いたその身の内』」
 そこで、カインの中である可能性が思い浮かんだ。
 それは考えてはいけないことだった。その所為で、カインの中で詠唱を妨害するという選択肢がなくなったからだ。もしかしたら自分は、ジェニファーが呼び出そうとしている人物を知っているかもしれない。
「『偽りの心を身に纏い、白き邪神は舞い降りる』」
 彼女の詠唱の意味するところは、カインの記憶の中では一人しかいなかった。
 それは、彼女の口から答えとして発せられる。
「『この身の名は、ウィンター・ワイテスティ』」
 カインが、とうとう知ることのなかった名前。
 しかし、ジェニファーの今の様子を見れば分かる。彼女がこれから放とうとしている術を見れば分かる。
「『反・故』」
 パッと、光が放たれる。
 それは、どす黒くこそ無い、純白の光が、禍々しい狂気を孕んだ光。
「ァ、……ああ」
 それを真っ向から浴びて、カインは衝撃を受ける。
 これは、確かに、自分が知っている光。
 限りなく白く、それでいて限りなく底暗い、邪神の光。
 カインを助け、カインの才能を見抜いた、あの白い魔術師の術。
「お前、まさか……」
「ウィンターさんとは、彼が死ぬ直前まで話しをしたの。その時に、覚えた」
 これだけは、最後に伝えておこうと思って。とジェニファーは加える。
 彼女の言葉は、カインにかなりの衝撃を与えた。
 自分が尊敬している、名も知らない魔術師。その魔術師と、ジェニファーにはつながりがあった……。
「……ジェニファー」
「なに?」
「あの人は、どんな人だった」
「いい人だったよ」
「――そうか」
 感傷は、そこまでだった。
 カインは、必要な問いの答えを聞き、納得する。
 また、ジェニファーも最後に彼が気にするであろうことを伝え、心残りを無くす。
 そして二人は、また戦闘状態に舞い戻る。
 一瞬だけ、昔のような空気が二人に流れたのも関係ない。二人すでに決別している。そのことを、二人ともしっかりと理解していた。
 だから、無駄な感傷には浸らない。――もう、戻れないのだから。

◇◆◇

「『その身に率いるは、清廉なる水』」
 新たに、詠唱を始めるジェニファー。
 それを見て、カインは腕を動かす。巨大な泥の腕。何度も行われたように、カインはそれをジェニファーに向ける。
 泥の腕の動きを見つつ、ジェニファーは続けて二小節目を唱える前に、炎の呪文を唱える。
「『爆撃』」
 迫り来る泥の腕を迎撃。
 しかし、その腕は囮。その爆風の間から、カインが走って向かってくるのが見える。
「『清き世願う少女の姿、不浄の世嘆く少年の姿』」
 呪文を唱えながらも、ジェニファーは杖を構える。
 カインの拳が迫る。泥に塗れた彼の拳。おそらく、術で強化されているのだろう。
 ジェニファーはその拳を杖で受け止める。が、受け止めきれず、衝撃で僅かにのけぞる。
「っ! 『水は穢れも洗い流す、彼女に従い流れ行く』!」
 三小節目。唱え終わるときには、カインのもう片方の拳が迫る。
 それを反射的に受けようとするが、しかし何故か腕が動かない。
「っ!?」
 見ると、ジェニファーの腕に、無数の泥の腕が絡みついていた。
 カインの術であると瞬時に理解する。そして、その後に取る行動は一つだけだ。
「『従え・霧散』」
 泥から、水分という水分が抜かれていく。
 それによって泥の腕は硬さをなくし、からからに渇いた砂に変わる。それに拘束の力があるわけもなく、ジェニファーはいともたやすくそれから抜けて、カインの拳を受け止める。
「『放て』」
 杖と拳で押し合いをしているところで、今度はカインの方が呪文を言う。
 一斉に、ジェニファーに向けて泥の弾丸が四つ放たれた。
「『爆破』」
 それに対して、彼女が行うのは爆発の呪文。
 迫ってきた弾丸を、接近しているカインもろとも吹き飛ばす。
「か、っは」
 ジェニファーはその爆発の衝撃に僅かに身じろぐ。これで使用は四度目だが、今回は爆発させる範囲が近すぎた。――たとえ、自分が使用した術であっても、その影響が与えられないわけではないのだ。
 そうやって身じろぎしている間に、カインは距離をとって腕を構えている。
 彼の両側から、無数の泥の腕が飛び出した。今まで二本しか操っていなかったから、てっきり腕の数しかできないと思っていたが、それはどうやら誤りのようだ。
 一斉に腕が迫る。
「『爆撃』」
 この腕に対しては、弾き飛ばす形の爆発が効くのはもう何度もやって分かっている。
 が、ここで数の差をジェニファーは失念していた。一度の爆破では間に合わなかったのだ。迎撃し損ねた腕が、爆発の間をぬって彼女に迫る。
 比較的小さな泥の手に殴られ、弾き飛ばされる。泥濘となった地面に転がりその生暖かさを感じながら、ジェニファーは次の手を考える。
「『従え・集中』」
 周りの泥濘の中にある『水』に呼びかける。
 雨のおかげで、この周りにはかなりの量の水がある。水の術を使うのに、適した環境であるのは確かだ。
 彼女の周りに、大量の水が集まっていく。
「『放て』」
「『従え・防御』」
 カインの言葉に対応するように、ジェニファーは唱える。
 それは攻撃の意があるものを自動的に迎撃する。身に纏った水の盾。
 しかし、カインも甘くは無い。その水の動きを正確に見て、合間から泥の弾丸を撃ち込もうとしている。そして、もしすべての弾丸を防がれても、その後には泥の腕を控えさせ、すぐに攻撃を与えられるようにしている。
 ――やっぱり、うまい。
 一つ一つの攻撃が、次に繋がっている。それでいて、一つも無駄打ちが無い。それは、長い間戦ってきて、戦闘経験が豊富だからだろう。
 今ジェニファーが対応していられるのも、『オクテット・レクイエム』によって強力な魔術師の魔法を扱えているからに過ぎない。それに、術を使役する精神はあくまでその術者本人だが、術を繰り出しているのはジェニファーの体である。自分に合わないとまではいかないが、自身のもので無いことで、体に来る負担は大きい。
 早めに決めなければならない。
 もう、待ち合わせの時間は来ているのだ。マラの目的を、『ギリシャ文字』に一刻も早く繋げなければならない。こんな所でぐずぐずしている暇は無いのだ。
「『罪・光』」
 水の盾が生きている間に、彼女は光の術を使用する。
 光が、一瞬収束し、まがまがしいほどの『白』となってはじける。
 それは、咎。人が生きているだけで背負う罪。
 もしこれを真正面から見据えれば、その罪を真正面から認めるのと同義。
「がっ」
 悶絶するカイン。さすがに、これほどのものを受けて平気でいられるわけが無い。
「――『従え・貫通』『爆砕』」
 二つの術を同時に扱う。
 まず、カインの周りが爆発する。それと同時に、ジェニファーを守っていた水が、まとまって彼の方へ向かう。
 二つの術をいっぺんに行使したことにより、ジェニファーの体に激痛が走る。それは、一瞬で意識を飛ばしてしまうほどのものだったが、精神をいくつかに分割している彼女は、簡単に意識を落とすことは無い。
 攻撃がカインを襲う。普通なら、爆発だけでも即死できるのに、その上水の追加攻撃。さすがに無事ではすまないだろう。
 しかし、その考えは早計だった。
 爆風の間から、不意打ち気味に泥の腕が躍り出たのだ。
 あまりのも予想外のことで、対応できない。抵抗できずに泥の手に殴られ、地面に叩き伏せられる。
 爆風の間から出てきたのは、無傷の姿のカインだった。
「このくらいの攻撃なら、防げないことも無い」
 冷静に、事実だけを述べているという感じのカイン。
 その姿に苦虫を噛みつつ、ジェニファーは起き上がる。
 泥の手が迫る。しかも今回は、拳を握っていない。指の先の、鋭利な爪をジェニファーに向けている。
 一撃目は、杖でなんとか流した。しかし、それにしても簡単にはいかず、衝撃で手が痺れてしまい、感覚がなくなってしまう。
 合いの手でもう片方の腕。こちらは、防御自体が間に合わない。それを見越して、ジェニファーは一発目を防ぎながら唱えていた。
「『従え・霧散』」
 先ほど成功したのだから、今回も成功するだろうという期待。それは成功で、カインの泥の腕の中の水分は、一瞬にして霧散。乾燥した砂となって崩れ落ちた。
 ジェニファーは距離をとりつつ、次の手を考える。さっきの爆発と水の攻撃。あれは、並みの防御ならたやすく破るだろう。それなのにカイン自身はまったく傷ついていないのを見ると、何らかの防御策をとっているはずだ。
 他の術を唱えてみるか、と残りの四人の魔術を考える。確かに、どれもあったら勝率が上がるだろう。しかし、詠唱の間に攻撃されたら、今度は防ぐのが難しい。詠唱の間に別の詠唱を挟むというのは、思いのほか精神的に負担が大きいのだ。
 だったら、今使用できる四人の魔術でどうにかするしかない。――それに、カインの防御がどういうものかは分からないが、その防御を破る可能性のあるものには心当たりがある。
「『光・悪』」
 人の精神を侵す、毒々しい悪を放つ。
 しかし、今度はカインの方も警戒していたらしく、その光が放たれる瞬間に目を閉じ、影響を最小限に抑えた。
 だが、その対策が仇となる。
「『従え・流水』」
 ジェニファーの呪文は、カインの足元の泥に向けて放たれたもの。
 それにより、彼の足元の『水』が勝手に動き出す。
「うおっ!?」
 ただでさえ不安定な足場が一気にゆれ、カインは体制を崩す。目を閉じた一瞬のことであったために、まともな反応すら取れない。
「く、『放て』」
 倒れそうになる自分を構わず、カインはまず、相手からの攻撃を警戒して攻撃を仕掛けてくる。そこからは、やはり戦い慣れた者の様子が窺える。
 だが、所詮はがむしゃらに撃った弾である。精密度も何も無い。その上、カインの周りの泥の中の水は、今ジェニファーの管理下に置かれているのだ。
「『従え・霧散』」
 先ほど以上にたやすく、弾丸を形成している泥は水と砂に分かれる。残った勢いで、砂がジェニファーに向かって吹き寄せる。
 しかし、砂によって目隠しをかけられる寸前まで、ジェニファーはカインのいた場所を凝視していた。
「『風の音は、心に響く――風の流れが肌を撫でる――』」
 体の中の魔力の流れが活性化する。術具である杖に、どんどん吸い上げられていく。
「『――風の声に冴え渡る――』」
 場が凪ぐ。流れていた砂が、いったん停止する。
 カインは――制御している場の水を介して分かる。今、倒れたところだ。だったら、立ち上がるまでに、あと一、二秒。
「なめるなぁ!」
 が、倒れたままの状態で、カインの雄たけびが聞こえる。
 それとともに、ジェニファーの足元の地面が盛り上がってきた。
「くっ。『従え・霧散』」
 唱えるが、制御が難しい。まだ、この泥はカインの魔力の制御下にある。それを無理やり奪うのが難しい。
 それが分かると、ジェニファーはすぐに優先順位を変える。
「『――風の祈りで場は裂ける』」
 泥に巻き込まれ、体がバランスを崩す。倒れながら、しかしそれでもジェニファーは決して、カインのいるであろう方から視線を外さなかった。
 一点だけ、砂のカーテンが晴れる。
 そこに、カインが今まさに立ち上がろうとしている姿を視認した。

「『衝き穿つ、風の刃』」

 アルミナの術を発動させる。
 一点を貫き、防御も関係なく突き破るということを目的に作られた、一点貫通型の最強の矛。それを彼女はカインに向けて放つ。
 決着は、一瞬でついた。
 砂のカーテンを吹き飛ばすように突き進んだ風は、音速に近い速度で衝撃を撒き散らしながら、立ち上がったばかりのカインの腹部を根こそぎ刈っていった。
 あまりにも強力な攻撃力。
 しかし、それゆえにジェニファーへの負担も半端ではなかった。
「う、があぁあああああああああああ」
 内臓がひっくり返るような痛みと吐き気がジェニファーを襲う。アルミナの魔術によって使用された分の魔力が、まるで体中を駆け巡り自分を攻撃しているようだった。
 度重なる他人の術の行使。その上で、『風』の属性の中で最強の術。それによってジェニファーの体はピークを迎えていた。
 さすがは、『風』の中でも最強の攻撃力と言われただけのことはある。その効力は、カインの今の姿を見れば分かる。その代償も。――これで、もし他の属性の最大攻撃を使ったら、いったい自分はどうなってしまうのだろうか。
「か、っはぁ、は」
 あえぎながら、ジェニファーは賢明に立ち上がる。まだ、なんとか動く。それを確認すると、ゆっくりとカインの下に歩き出した。



 カインは、まるで腹部を何かに食いちぎられたかのようになり、即死してもおかしくない状態で生きていた。
「……カ、イン」
「は、はは。アルミナの野郎。あれで、手加減してやがったのか」
 毒づくようにカインは言う。しかし、口調ほど、彼は苛立ってはいないように見える。――むしろ、清々しそうだ。
 彼の防御である『土塊の献身』。龍の攻撃までも緩和させたこの防御が、例え弱っていたとはいえ貫かれたことは、彼の完全敗北を意味する。
「――どうした、ジェニファー。とっととトドメを刺すか見捨てていくかどっちかにしろよ」
「……ねえ、カイン。どうしても、マラの味方をするの?」
 無駄なことと分かりつつ、ジェニファーは最後の足掻きで聞く。
 カインは、ずっと味方だと思っていたのだ。ずっと、信頼し続けていたのだ。敵対し続けているというのは、耐えられない。
「はん、今更、何を言ってるんだ」
「私は、あなたと敵でいたく無い」
 自然と、涙がこぼれてきた。その涙は、後から後から、ジェニファーの頬をつたってとめどなく流れていく。
 切実な思い。泣き落としをしようとは思わないが、それくらいジェニファーが真剣だということは分かってほしかった。
「俺だって、いたくは、無いさ。ごほっ。……だが、考え方が、違う以上。敵対、するしか、ない」
「……どうして、そんなにマラに固執するの」
「言ったろ。俺は、マラに固執してるんじゃ、ない。――助けて、くれた三人に、固執して、いるんだ」
 切れ切れに、苦しそうにしながら、カインは言葉を紡ぐ。
「例え、間違っていることだと、しても。それでも俺は、あの三人のために、生きたい」
 元から、あの三人がいなければ無かった命だ。
 そう、カインは後悔も何も無い口調で言う。
「ほら、ジェニファー。……俺は、お前の仇の仲間だぜ。ごほっ。……殺せ、よ」
「……ねえ、カイン。私、ね」
 涙で声をつまらせながら、ジェニファーは必死でカインに話しかける。
「私、あなたのこと、好きだったんだよ」
「…………」
「始めは、お兄さんみたいに思ってた。だけど、違う。私は、あなたが好き。ずっと、ずっと好きだった。頼りになるって、信頼できるって、だから思えた」
「はっ。その思いは、結局間違ってたんだがな」
 そう。カインの言うとおり。
 最終的には、裏切られたのだ。
 だけど、それでも――
「最後に、これだけは言わせて」
 本当は、言うのが怖かった。
 だけど、もしマラから無事脱出して、全てが終わったら言おうと思っていた。
 杖を構え、そして、自分の気持ちを、嘘偽りなく、こめて言う。

「――I still love you.」

 それに対して、彼の答えは、

「……俺は、お前のことが、嫌いだったよ」

 すべてを拒絶するように、日本語で、言い捨てるように言った。
 ――答えを聞くとともに、杖を振りかぶった。
「『何も考えるな』」
 そして、思いっきりカインの頭に向けて振り下ろす。
 雑念を振り切るように、すべてを振り払うように。彼との間にあったことを、すべて打ち消すように。
 張り裂けそうな思いで、口を開く。
「『私は、――強い』」
 悲痛な声で、呪文が紡がれる。
 そして、暗い森に、ぐしゃりという、嫌な音が響いた。

◇◆◇

 カインは、ジェニファーが自分に対して抱いていたであろう気持ちには気づいていた。しかし、それを気づかない振りして、今まで過ごしてきた。
 そんな風だからこそ、最終的に裏切るという結果しか出せなかったことが、カインの中で大きな責め苦となっていた。
 裏切った理由で、彼がジェニファーに語ったことに間違いは無い。すべては、あの三人のために生きると誓ったことが原因だった。
 しかし、彼らの役に立とうとすることは、戦争に参加するということになる。戦争をするということは、自分のような紛争の犠牲者を、たくさん出すことに繋がる。
 マラは、戦闘専門の魔術集団であるから、カインも戦い自体は何度も経験してきた。しかし、それはあくまで相手も対等の条件下のもとであって、誰かを巻き込むということはしたことがなかった。――というよりも、してはいけないと思っていた。
 だからこそ、今回ミュリエルの決定は、カインを板ばさみにした。
 ジェニファーに戦争の話を聞いて、ミュリエルに直談判に言ったとき、彼女は微笑みながら言った。
「何かを掴むということは、何かを犠牲にすることだよ」
「……そんなこと、分かっています」
「いいや、きみは分かっていない」
 諭すように、彼女は続けた。
「今のマラは、実を言うとかなりまずい状態にある。マラが戦争をしないという決断をした場合、マラは遠からず滅びる。敵対組織はいっぱいあるしね。たぶん、弱ったところをすぐに蹂躙されるだろう。それを、みすみす見逃すことが、正しいことかい?」
「……戦争のほかにも、道はあるかもしれません」
「無いよ。たとえ、あったとしても、それはマラでは使えない。マラは、戦闘集団だ。戦う以外に、私たちが生き残る手段は無い。方法はあったとしてもね」
 ミュリエルは続ける。
「まあ、これは私の考えだ。きみに押し付けるつもりは無い。きみは、きみの思うとおりに動けばいい。戦争が嫌なら、裏切ればいいさ。もちろんその時は敵対することになるから、全力で潰されるかもしれないけどね」
 そして、ミュリエルはシニカルに笑いながら、最後にこう言った。
「ここまでは、マラの頭領の一人である私の意見だけど、ここからは子供のころからきみを見てきた大人としての意見だ。何事も、自分で選びなさい。私は、私の意見を強要しない。ただ、きみが従いたいと思う人に従えばいいし、抗いたいと思うのなら、抗えばいい。その結果がどうなろうとも、自分の選んだ道なら、納得がいくからね」
 それは、丸投げにも等しかった。
 ミュリエルは、カインに命令するでもなく強要するでもなく、自分で考えろといったのだ。それは、それまでミュリエルたちに従うだけだったカインには、少しばかり重過ぎた。
 悩んだ。自分がどうするべきかを、何日も悩んだ。
 その果てに、自分はミュリエルに命令して欲しかったのだと気づいた。私の考えに従えと言われたならば、彼は嫌だと思いながらも、戦争に参加せざるをえないのだから。
 だけど、それはもう無理だ。ミュリエルは、自分で考えろと言った。他の人間よりも早く掴んだこの情報で、自分はどう動くべきかを考えろと言われたのだ。だったら、自分で決めなければならない。――それを選択することによって発生する責任も何もかも、自分で負わなければならない。
 結局、カインはマラに協力することを選んだ。
 何よりも、まずミュリエルと敵対するということが、自分の中で許せなかったというのがその理由だ。
 そのことを言ったとき、ミュリエルは口の端に笑みを浮かべながらも、真剣な面持ちで言った。
「本当に、いいんだね。これで、きみは命令されたじゃなくて、自分の意思で戦場に立つことになるよ。自分の意思で、一般人を不幸に落とすことになるよ?」
「構いません。どうせ、あなたたちがいなければ無い命ですから」
 その答えに、ミュリエルは少しだけ目を伏せながらうなずいた。
 それから、ジェニファーの裏切りへの妨害。
 彼女の『オクテット・レクイエム』の魔法を失うことはマラにとっても打撃が大きいようだったが、ミュリエルはすぐに排除を命じた。ジェニファーは、こちら側につく気はまったく無い。そんなものを、無理やり連れ帰っても無意味だというのだ。
 そうして、今回の逃亡劇である。それについて、ミュリエルは、完全な誤算をしていた。まさか、ジェニファーがここまでの魔術戦を演じるだけの実力を持っているとは思わなかったのだ。カインにいたっては、誤算も何もジェニファーとアルミナの真価を知らなかったからこそ、足元をすくわれたのだが。
 今、その決着がついた。食い穿たれた自分の腹。『土塊の献身』を突き破られたことで、彼の切り札は完全に断たれた。
 そうして、完全敗北をして、カインの中に残ったのは、妙な清々しさだった。
 ――ああ、これが。
 ――これが、ミュリエルが言っていたこと、か。
 自分で選んだ果ての最後。結局、自分はマラの役には立てなかったし、妹のように思っていた自分を好いてくれる少女さえも裏切った。しかし、それでも心の中は妙に清々しかった。
 ジェニファーが、カインのすぐそばに立つ。そこで、彼女はとうとう自分の気持ちを言ってきた。
「私、あなたのこと、好きだったんだよ」
 涙を流しながら、嗚咽に声をつまらせながら、それでも彼女は、自分の気持ちを言った。
 ああ、分かっていた。彼女の気持ちは。
 でも、自分にはそれに答える資格は無い。
 裏切ったカインには、彼女の思いさえも叶える資格は無いのだ。
「最後に、これだけは言わせて」
 悲痛な叫びを上げるように、しかしそれでいて思いを押し殺すようにして、ジェニファーは最後の言葉を言う。
「I still love you.」

 それは、覚悟していた言葉。
 どんな罵倒よりも、どんな呪詛よりも、カインの良心を抉る言葉。
 それは、だってカインが受け取っていい気持ちではないから。
 だから――
「……俺は、」
 最後まで、自分で決めたことを――ジェニファーと敵対するという覚悟を、貫く。
「お前のことが、嫌いだったよ」
 たぶん、ジェニファーにはばれただろう。カインの、本当の気持ちを。
 恋人としての好きとまでは言わずとも、妹として、家族として、カインはジェニファーのことを好きだった。
 最後の虚勢で言ったことの裏にあるものを、たぶん彼女は掴んでしまった。
 だからこそ、彼女は吐き出しそうなほど顔をゆがめて、涙を我慢している。
 ――ったく、俺は甘いんだから。
 ジェニファーの杖が振り下ろされるのを見ながら、カインはぼうっと考える。
 彼女には、目的を果たして欲しいものだ、と。
 それは、何の嘘偽りもなく、また皮肉でも嫌味でも無い、ただ本心から来る、彼の本当の気持ちだった。
 つまりは、彼の選んだ道はそういうことだった。
 ――がんばれよ、ジェニファー。
 そうして、彼の頭は叩き潰される。
 それが、カイン・アルファスという名の魔術師の最後だった。

◇◆◇

 レンテンシア・クライエット・ソフィリアという少女は、多くの人がそうであるように、幸福に包まれてこの世に生を受けた。
 両親と母方の祖父母、それに、上に兄が一人と姉が一人。その七人家族。クライエットというのは父方の祖父の方の苗字で、名前の響きを考えて両親がその形にしたのだという。
 彼女は、言うならば普通の少女だった。特別な才能も無い、かけっこでは六人いればいつも四位だし、学校の成績も、平均的に中の下。芸術の才能もなければこれと言って熱中するものもない、ただ少しばかり思い込みの激しい女の子だった。しかし、彼女はそれでも幸せな毎日を送っていた。
 その生活が崩壊したのは、八歳の秋。いつも通りに学校に行き、いつも通りに家に帰ったある日のことだった。
 彼女の家は、街から少し離れた郊外の、それも民家の少ない場所にあった。その頃、彼女の家の近くでは狂犬が暴れているという噂があったこともあり、彼女はできる限り早めに帰りたかったのだが、その日だけは用事があって遅くになってしまった。
 家の近くに着くと、何か雰囲気がおかしいことに気がついた。空気が、少しだけ熱く重たいのだ。妙な胸騒ぎを覚え、彼女は走って家に帰った。
「っ!?」
 家にたどり着いて、彼女は息を飲んだ。家が、燃えていたのだ。
 レンテンシアは焦って危険な燃え盛る家の中に入っていった。煤交じりの煙にむせつつ、彼女は急いでみんなのいるところに急いだ。
 次に彼女が見た光景は、八歳の少女が見るにはあまりにも凄惨なものだった。
 部屋の真ん中に倒れている、服を着た肉の塊。頭も手足も無いその塊を、レンテンシアは自分の家族であるとは到底信じることが出来なかった。
 熱気の中で呆然としていると、後ろから声をかけられた。
「お前は、噛まれていないのか――?」
「え?」
 突然話しかけられて、弾かれるように振り向く。
 長身の、黒いローブを纏った男が立っていた。
 その男は、レンテンシアのことを嘗めるように観察し、続けて驚いたように息を呑んだ。
「ちょっと、オーガラス。どうしたの?」
 台所の方から、別の声が聞こえた。一瞬、母の声かと思ったが、それにしては半音高い、若い女性のような声だった。
 出てきたのは、案の定母ではなく、見知らぬ若い女性だった。
「こっちのほうには、もう『犬』の手がかりは無いわ。とりあえず影響を受けたのはそこの三人だけみたい――って、その子、一体何?」
「どうやら、さっき入ってきたらしい。というか、この子がもう一つの目的の方の『当たり』みたいだ」
 冷静に答えるオーガラスと呼ばれた男。それを尻目に、女性はゆっくりとレンテンシアの方に向かってきた。
 燃え盛る炎の中、レンテンシアは、その時初めて、『魔術師』という存在と対面した。
 そこからのレンテンシアの記憶は、酷く曖昧だ。気絶したわけではないと思う。しかし、体の自由が利かなかった。ただ、意識だけがあったという感じである。
 そんな中で、彼女は自分の家族が殺される様をしっかりと見ることになる。彼女のあとに返ってきた兄と姉、そして、父。彼らは、家にいた二人の男女によって虐殺された。
 それを、レンテンシアという少女は、しっかりと、妥協無く、凝視した。
 これが、自分の運命を決定付けるものだと、まるで知っていたように。
 それから、彼女はマラに連れて行かれた。後は、彼女の地獄の始まりであった。
 六十六年にわたる精神の修行。八歳という、どうしようもなく子供であった彼女を、その出来事は、無理やり、急速に成長させた。
 そこまでさせられたのも、すべては『オクテット・レクイエム』のため。その、マラの幻にも近い能力開発の、実験のため。
 実を言うと、実験体となった人間は、彼女のほかにも何人かいた。しかし、その中でいち早く結果を出したのがレンテンシアであったというだけのことだ。
 魔術師としてのレンテンシア。その時に、彼女は本名であるレンテンシア・クライエット・ソフィリアという名を隠すために、彼女が物心つく前に亡くなった彼女の名付け親である、父方の祖母の名前をとった。それが、ジェニファー・クライエット。
 ジェニファーはずっと、マラを憎んで生きてきた。そうでもしなければ、始めの六十六年の間に精神そのものが崩壊していただろう。絶対に、いつか復讐するという底暗い思いを抱いて生活をしていた。
 マラの戦争、というのは、その格好の機会であった。
 戦争の苦しさ、恐ろしさについては、『意識の檻』の中で使われた『ヴァルハラ』によって嫌と言うほど知っていた。疑似体験として何度も何度も銃弾に撃たれたし、爆撃に身を引き裂かれた。そんな経験をしたからこそ、彼女は余計にマラを裏切ることに固執した。
 しかし、自分一人で裏切るだけならよかっただろう。そこで彼女が判断を誤ったのは、他の人に助けを求めたということだ。
 その結果が、今の状況である。
 母親のように頼っていたアルミナは殺され、兄のように慕っていたカインには裏切られた。カインについては、特別な感情まで持っていたというのに、それを自らの手で殺した。
 ボロボロの状態で、ジェニファーは杖をついて森の中を歩く。体力的にも、精神的にももういっぱいいっぱいだった。どんなに落ち着こうとしても、精神がピリピリと張り詰めている。どこからか敵が繰るのではないか、という疑心暗鬼に駆られてしまっている。
 この状況では当たり前の反応であろうが、しかしこういう反応を取るということは、すでに彼女が一般人で無いことを如実に現していた。彼女は、もう一人の戦士だった。普通の生活や、普通の経験を望むことも出来ない。そのことに、彼女は自嘲気味に笑みを漏らす。
 待ち合わせの場所は、もう少しだろうか。一応ルートだけはアルミナに教えてもらっていたので、無意識のうちにその道をたどっている。
 支えにしている杖を見る。『メンタルフレンド』。この杖を、魔術に使ったり殴打するのに使ったりすること無く、本来の用途通りに使っていることに、若干の違和感を覚える。本来は、これが正しいのだ。それに違和感を感じてしまうほど、彼女は染まってしまっていた。
 もうすでに、幸せな少女であったレンテンシア・クライエット・ソフィリアという少女は死んでいた。今いるのは、ジェニファー・クライエットという魔術師だけだった。
「……は、はは」
 乾いた笑いが漏れる。そういうことを、さっきのカインを殺したときに、彼女は嫌というほど知った。
 もう、彼女は人並みの幸せすら、まともに享受できないのだ。
 そのことに涙しながら、ジェニファーは目的地に向けてひたすら歩を進める。

◇◆◇

 その少女は、木に背を任せてある人物を待っていた。
 綺麗な銀髪は動きやすいように一本にまとめられている。服はジャージだというのに、彼女が着れば妙におしゃれに見える。腕時計を見ながら、彼女はじっと待ち続ける。
 待ち人の名前は、アルミナ・コゼット。一年半ほど前に、ちょっとしたきっかけで出会った魔術師。
 彼女から連絡があった時はびっくりした。しかも、それが重大なことであるから尚更だ。
 少女にとって、アルミナ・コゼットという女性は信用にたる人物だった。下手な冗談は言わない、無駄を省いた現実的な女性。深く身の上を話したことがあるわけではないが、彼女が暗い過去を持っていることは雰囲気で察せられた。そんな彼女から与えられた情報だ。ないがしろにすることは出来ない。
 そう思って今日出てきたのだが、約束の時間からすでに五十分すぎている。一応、何かあったときのために前後一時間はすると言われているが、もし一時間経ってしまったらどうしよう。デマだったのか、はたまた本当だったために追っ手にやられたのか。判断に悩むところだ。
 と、そんな風に少女が困っていたところで、人の歩く物音が聞こえた。
 体全体を引きずるような音。どうやら怪我をしているらしい。少女はそちらの方に視線を移した。
 少女と同年代の人物が、ボロボロの状態で杖をついて、足を引きずりながら歩いてきていた。来ているローブは何度も転んだように泥だらけで、切り傷だらけ。また、間から見える体からは血が流れていて、ひと目で満身創痍だと分かる。
 しかし、おかしなことに彼女以外に人がいない。もし彼女がアルミナとともに来た人物ならば、アルミナがいなければおかしいのだが――?
「ねえ、ちょっとあなた」
 少女は、とっさに英語で呼びかけた。
 ――すると、その傷ついた少女は、呼びかけた彼女にその時始めて気づいたのか、驚いたようにした後に、とんでもない行動に出た。
 ほとんど反射的に、彼女は杖を少女に向けて振るってきた。
「なっ!?」
 驚きのあまり声を漏らしながら、少女ははじけるようにのけぞる。
 傷ついた少女は、攻撃を避けられたことを見るや否や、すぐに杖を構えなおして追撃してくる。
「『私は、強い』」
 満身創痍の体から繰り出されるとは思えないその力強さ。それに驚きつつ、少女はたやすくその攻撃を避ける。
「ああ、もう――だから、なんだっていうの」
 いきなり襲われる理由が分からない。――が、相手の様子を見て、彼女は違和感を覚える。どうも、向こうの方もわけも分からず攻撃している節がある。
 それがどういうことか考えようとしたところで、思考は停止させられる。彼女の鼻先を、傷ついた少女の杖が通過したからだ。
「――だあ、もう、止まりなさい!」
 ついに耐え切れなくなって、少女は地面に手をつく。そして、地面に対して意識を集中させる。
 次の瞬間、杖を振り上げた少女の足元から、なにやら太い木のツルのようなものが生えてきた。
「っ!?」
 反射的に逃れようとしているが、そう簡単に逃れられる代物ではない。傷ついた少女は、その太いツルによって体を拘束されてしまった。
「――さて」
 それを見て、優雅に立ち上がると、彼女は少女に向けて声をかける。
「どちらかといえば、日本語の方がいい?」
「…………」
 ツルに縛られた状態のまま彼女を睨みつける少女だったが、ふと我に返ったように目を丸くすると、気を抜いたように表情から剣呑さを落とした。
「あー、っと。どうも我を忘れていたようだから言うけど、襲ってきたのはあなたの方からだからね。そのツルにしても、正当防衛。そこのところ、いい?」
「……分かって、いる」
 かすれた声で、落ち込んだように言葉が返される。
 とりあえず、彼女が落ち着いているのを確認して、少女は質問をする。
「で、結局、あなたはどなた?」
「私、は――」
 困ったように目を泳がせる。しかし、最終的には答えを見つけたように、小さな声で言う。
「私は、ジェニファー・クライエット。マラの魔術師」
「……もしかして、アルミナさんの連れ?」
「ええ。ちょっと、途中でいろいろあって、アルミナは、来れないけど」
「――そう」
 その答えに、少女は僅かに目を伏せる。遅れているという時点である程度は覚悟していたが、やはりそのことを明言されると感じるものがある。
「ところで」と、ジェニファーは、彼女に向けて質問を返す。
「あなたは――アルミナが、言っていた、ギリシャ文字の」
「ああ、そういえば、こっちの自己紹介がまだだったね」
 にっこりと笑いながら、彼女は堂々と名乗る。
「私は、『ギリシャ文字・σ』。『終わりの天使』フィーネ・ロサンゼルス」
 そうして、安心させるような、明るい笑みを浮かべていった。
「アルミナさんの依頼は、しっかりと受けるわ。安心して、ジェニファー」
 その言葉に、ジェニファー・クライエットという少女は、安心したように表情を和らげ、そして意識を失った。――その瞬間、やっとジェニファーは気を抜くことが出来たのだ。
「さて――」
 それを見届け、フィーネと名乗った少女は、ジェニファーを縛っているツルの拘束を解くために、手を伸ばす。
 この少女の、ボロボロの姿を見て分かる。彼女は、それだけ必死の思いでここまできたのだ。途中にどれだけの苦難があったか分からないが、それを、彼女は乗り越えてきた。
「この思いを、無駄にするわけには、いかないものね」
 フィーネは、自分と大して年齢が変わらないであろうジェニファーの頭を撫でる。まずは、彼女の身の上をどうにかしなければならない。マラを裏切ったことで、彼女はこれからマラに追われる立場になるだろう。それはたぶん本人も了承済みだろうが、できるだけ力になってやりたいとは思う。
 そういえば、と彼女は思い当たる。丁度、日本に人を求めているところがあった。確か、『常盤』という名の原石を守る役割だ。ひとまず、マラから身を隠すための居場所として、そこを当たってみよう。
 見通しがついたところで、フィーネは仲間に連絡を取る。とりあえず、ジェニファーを早くまともな場所で休ませてやらなければならない。
 その連絡を取っている最中、フィーネはあることを忘れていたことを気づく。彼女は、ジェニファーに目をむけ、優しく言った。
「お疲れ様。ジェニファー」


 ――こうして、マラと世界の戦争が始まる前の、ほんの小さな戦いは幕を閉じた。
 十五魔鏡二人を欠いたマラと、カインとアルミナという二人を失ったジェニファーは、どちらも軽くは無い被害を受け、痛みわけという形でこの闘争は終了した。
 このあと、フィーネの命により送られた日本の『常盤』という土地で、ジェニファーは四人の人間とともにとある呪いに巻き込まれることになる。その所為でとマラとの関係は切ってもきれない因縁となり、壮絶な戦いを生むことになるのだが、それはまた別の話である。


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コメント

今回はマラの話だったんですね…。

カインとジェニファーの両視点からみたラストシーンが切なかったです。
カインの恋人としての好きではなくとも妹として、家族として好きだったというのとかも、下手に相思相愛なものよりリアリティがあっていいと思います。
『何も考えるな』という自分への暗示とかも、場の雰囲気に合っていましたし。

ただ、『オクテットレクイエム』の中でジェニファーが会った魔術師とカインの会った魔術師とが同一人物だというのがなかなか気づけませんでした…。

それと、やっぱりフィーネや渚などの存在が出てきているのが嬉しいです。
相変わらず世界が出来上がっていらっしゃる。羨ましいです。
[2009/04/07 11:02] URL | メイ #- [ 編集 ]


こんにちわ、メイさん。感想ありがとうございます。

ラストシーン、切ないと言ってもらえてよかったです。自分でも思い入れがあるシーンなので、滑ってたらと思うと……
わざと恋人としての『好き』にしなかったのは、カインとジェニファーの間に、気持ちのズレを持たせるつもりだったからでした。そのずれがあったから、今回のようなことになってしまったんだ、と。
白い魔術師については、ちょっと強引だったかなぁとも思ってました。本当は必要なかったんですけど、ちょっとした伏線にもなるのでいれちゃえーって感じで入れました。気づけないのが当たり前だと思います。


世界観はできていても、あまりにもエピソードが多すぎるから書けないという……。これで全然別の世界の話も考えているくらいですから、全部満足に終わらせるのにはどれだけかかることやら……
[2009/04/07 22:13] URL | 西織白夜 #fBhJEaUc [ 編集 ]

オリジナル作品の感想
先日、戯言の二次創作を読ませていただいた者です。

作者様のオリジナルの読ませていただきました。で、思ったことを簡潔に申し上げると


勿体ない!


ブログの場合、前編が下の方にあるため、探さなくてはならない。文字の大きさが、小説向きではないなどの問題があります。この二点が改善されるだけでも大きな違いがあると思います。


このサイトのオリジナルを大手の小説投稿サイト「小説家になろう」様や「Arcadia」様に投稿してみてはいかがでしょうか。

たまに辛い批評もありますが、作品の向上には繋がります。私のお勧めは「小説家になろう」様です。評価システムがわかりやすく、荒しがほぼないので使いやすいです。

恐縮ながら、私の作品のアドレスと付属しておきましたので、文字形式(内容は見るに足らない駄作ですので忘れてください)をもしよろしければ参考にしてください。
[2009/05/16 15:09] URL | Johnasan #jcOaHd1Q [ 編集 ]


遅くなりました。まさか本当にこっちも読んでもらえるとは思わなかったので、うれしいです。ありがとうございます。

文字の表示形式に関してなんですが、正直な話をするとそっちの方に気を配っている余裕がないんですよね。そもそも分量が多いので、ああいったブログ小説的な表示の仕方をするにはかなり時間が掛かっちゃうので。
いつも書くときはワードで縦書きにして書いているので、こうなるしかないのです。もともと、ブログでアップするのはついでで、本命は新人賞に送ることだったりするので、そちらの方をやる余裕がないというわけです。

小説投稿サイトも、以前は投稿していたのですが、そういうのをするのがもう面倒になってしまって……。小説をアップするスピードも遅いですしね。もっと早く、短くまとめることができるのならそれでもいいのですが。・……せっかくのお誘いですが、申し訳ありません。

Johnasanさんの小説に関しては、少しずつ読ませてもらいます。

では、ありがとうございました。
[2009/05/17 22:09] URL | 西織白夜 #fBhJEaUc [ 編集 ]


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西織

Author:西織
この欄を編集するのを完全に忘れていた男。今年の四月に新社会人という名の社畜人生に一歩を踏み出した。



性別:男
年齢:22歳
血液型:A型
趣味:読書&執筆
将来の夢:作家(前途多難)

本の感想などを見たい人は、こちらをどうぞ
『空っぽの知識(読書日記)』
http://emptyreader.blog81.fc2.com/

自作小説専門のブログ作りました。
『空っぽの知識(自作小説)』
http://emptynovel.blog83.fc2.com/

同じFC2ブログを三つも作ったことにより、他のブローカーに訪問者履歴的な意味で迷惑が……あの、本当に申し訳ございません。


何か連絡があれば、こちらにお願いします。
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